クリントン大統領MIT卒業式スピーチ

 原文はこちらです

 翻訳:野村正

6月5日にクリントン大統領がマサチューセッツ工科大学で卒業生を対象に演説を行ったときのテキ
ストです。

 今日は良い知らせと悪い知らせを持っていまいりました。
良い知らせは、今朝の最新経済報告で、失業率が4.3%になり、過去5年間で1,600万人が雇用さ
れ、現在も多くの雇用が促進されていることです。悪い知らせは、これで諸君が両親に、仕事がない
から就職しないなどということが云えないことです。
 マサチューセッツ工科大学は、創造的で、促進力があり、夢を実現するところとして、世界中から
賞賛されています。マサチューセッツ工科大学の注目すべき発明や発見がアメリカを変えました。初
期のマサチューセッツ工科大学は、地質学や採鉱などの分野で先進的な大学としてその名を知られて
いました。その後エックス線とレーダー技術のパイオニアとして有名になり、現在は、レーザー、人
工知能、生物工学で有名になっています。マサチューセッツ工科大学は、アメリカの時代を創ること
に貢献してきました。そして、マサチューセッツ工科大学は、アメリカと世界をより良い21世紀に
するために情報革命をとおして驚愕的な進歩を続けるでしょう。
 革命は、ここマサチューセッツだけでなく、アメリカ中、世界中を触発するでしょう。私がここで
話したいことは、科学や技術の新しい驚異ではありません。それはあなた達の方が良く知っているこ
とです。私がここにきたのは、我々の社会と経済が大きく変わろとしている今、この変革期にいかに
アメリカの価値を適応させていくかということ、新世紀を約束された総てのアメリカ国民としての責
任について話すためです。
 まず、わが国の使命、わが国の創設者たちのビジョンである自由と平等、より良い明日のためにと
もに努力し、彼らが提唱するところのより完全な連合を目指すことです。我々は、総ての子どもが、
限りない可能性を持っていると信じています。それは、普通の人がすばらしいことを達成できるとい
うことでしょう。機会を広げ、自由という意味を深め我々の理想を現実にするために、すべての世代
は、これにチャレンジする義務があります。あなた方は、新世紀、新千年期を迎えるに当たって、そ
れに応えねばなりません。諸君はアメリカとして注目すべき瞬間である未来世界に向かっています。
それは、過去25年間で最低の犯罪率、27年でもっとも福祉の不要な、28年でもっとも低い失業
率、32年でもっともインフレの低い、35年間でもっとも小さい中央政府、我々の歴史でもっとも
家の所有率の高い、注目すべきとき、全てが一新されていく時代、滅多に体験することの出来ない瞬
間です。諸君の将来に対しての大きく長い挑戦であり、重い責任と機会を与えてくれるでしょう。
 この春、私は、国中の卒業生に対して3つの挑戦について話しています。先月私が、海軍学校に行
ったときには21世紀のテロ、組織犯罪、薬物不正取引、国際犯罪、世界的気候変化、大量破壊兵器
に対しての新しい安全対策について話しました。
 来週はオレゴン州ポートランドで、わが国の移民問題が今後のアメリカを強くしていくのか、それ
とも弱めるのかについて議論するつもりです。そして、ホウ博士(Dr. David Ho)が移民と出入国管
理についての助言に感謝いたします。
 今日は、この情報時代に挑戦していくことを焦点に話していきます。情報革命とそれがもつ無限の
可能性を多くの人が認めています。しかしそれらを可能にするには、チャレンジと重要な決断をして
いかなければなりません。その決断によっては、すべてのアメリカ人に機会を与えることが出来るか
もしれませんし、または多くの人たちにおいてきぼりをくわせることになるかもしれません。みんな
が不公平な状態になるかもしれませんし、平等に出来るかもしれません。今までにないほどの繁栄を
もたらすことも可能になります。選択をいつまでも延ばしておくわけにはいきません。行動するかし
ないかを決めなくてはいけません。みんなにとっての絶対的な機会などはありません。ただ進むべき
道を指し示し、指をならすだけでより良い未来が実現できるわけではありません。もし、この新時代
を確固としたものにするには、もっと努力する必要があります。すでにこの情報時代は我々の仕事の
方向を変えています。ハイテク産業は自動車産業が最盛期に雇用をした50年代よりもより多い雇用
をしています。自動車と鉄鋼業界はニューテクノロジーによって復活してきています。もっとも技術
研究開発の恩恵を受けているのは、伝統的なアメリカの企業である、建設業、輸送業、小売業です。
生活様式も変化しています。マサチューセッツ工科大学の4年生が生まれた頃から比べれば、今日の
一般家庭でのコンピュータ普及率
は著しいものがあります。我々のコミュニケーションも変化しています。郵便の30倍もの電子メー
ルが配達されています。今日の式典はインターネットによって世界中の人々が参加できるようになっ
ています。我々の学習行為にも変化が起きています。DVD テクノロジーを使えば3インチほどの高さ
のディスクでハイドン図書館の総ての文献より多くの文献を記録することが出来ます。それは、我々
の社会の職場を変えています。何百万人ものアメリカ人が自分の夢をかなえる我々の国を創る巨大企
業にみんなが参加する機会を与えられるでしょう。今日我々が開発している道具は人種差別や性差別
、収入差別や年齢差
別を無くし、学校、仕事、人間的可能性を広げるでしょう。強力な巨大企業しか参入できなかった世
界市場が中小企業に開かれるでしょう。そんなに遠くない将来、子どもたちがキーボードを叩くと、
かつて書かれたどんな本でも、絵でも、シンフォニーでも何でも見たり聞いたり出来るようになるで
しょう。歴史上初めて、地球上のどんな場所にいる子どもも同時に同じ知識を共有し、世界中とアク
セスできることになります。ここには、革命的な民主主義の可能性を秘めています。我々の経済、社
会にとって巨大な利益をもたらすことを想像してみて下さい。若い世代が21世紀の技能をマスター
することが出来るでしょう。ここから数マイル離れたところに労働者階級の町があります。そこの公
立学校では、良く訓練された技術指導の先生とタイム・ワーナー・ケーブルからの援助でハイテク設
備を装備し1学年から8学年までの生徒を教育し始めました。1学年は、コンピュータで小冊を作成
し、6学年は、文書を作成しています。テクノロジーに動機を与えられた6学年は、冬休みのコンピ
ュータプロジェクトの学習計画を作成するために学校に出てきています。小さな奇跡が裕福な学校に
も貧乏な学校にも起こるでしょう。現在は、裕福な学校は貧乏な学校の3倍も教室内でインターネッ
トを活用しています。黒人の学生の倍以上の白人の学生が家にコンピュータを持っています。不平等
な教育はよりいっそうの社会的不平等を生じることを経験からよく知っています。情報社会はこの傾
向をより早めるでしょう。アメリカの三大成長業界は、すべてコンピュータ関連業界で、給料も高い
。デジタル関連は、勢いを失いつつあるが決してなくなることはないでしょう。たとえ新しい技術に
よって経済が成長し、新しい雇用機会が出来たとしても経済的な不平等と社会的な分裂は起こります
。これは、歴史が証明しています。農業の機械化と産業革命のときにこの通りのことが起きました。
情報時代に突入するとき、このようなことが起こらないようにしなければなりません。革命的なテク
ノロジーから得られる高度成長を利用してこの不平等を抹消することが出来ます。しかし、教室の全
ての生徒がコンピュータを持ち訓練された先生が教えるまで、全ての生徒がインターネットを使って
自由に膨大な資源を利用出来るようになるまで、すべてのハイテク企業が高給で熟練者を雇用してい
っぱいになるまで、アメリカにとっての情報時代の約束された成功は訪れないでしょう。このチャン
スを逃すことは絶対にできません。毎日われわれには、チャレンジすべきことがあり、われわれは、
決断を下さなくてはなりません。

 3つ提案することがあります。

「革命を先導していくこと」

最初に、アメリカが科学とテクノロジーの革命を先導し続けなければなりません。経済成長は、雇用
機会を維持するために必要な条件です。そして科学的な研究は経済成長のために必要不可欠である。
昨日、日本で科学者が微量な中性微粒子が質量を持つという発見を発表しました。多分ほとんどのア
メリカ人には、無意味なことのように見えますが、我々の基本的な理論を根底から変えてしまうかも
しれません。原子より小さい粒子の性質が、この宇宙の法則や宇宙が拡大していく基になっています
。この発見は日本でされました。しかし、米国資源エネルギー省の投資援助がありました。この発見
によって、数年前に超伝導による超衝突実験を中止したことが正しい判断だったかどうか疑問が生じ
てきました。そして、イリノイ州のFermi National Acceleration Facilityがいかに重要であるか
をあらためて認識させられました。より大きな問題は、これらの発見が研究室内だけの問題ではなく
、社会全体、経済活動だけではなく生活全般、我々の相互理解や時と場所にも影響を及ぼすことです
。過去4年間、情報技術は経済成長の3分の1以上を占めてきました。政府の援助を受けないでコン
ピュータやインターネット、通信衛星の発展はあり得ません。私が大統領に就任した時点では、イン
ターネットは政府基金研究プロジェクトの物理学者が利用していたものにすぎませんでした。当時は
、50サイトしか世界に存在していませんでした。今はみなさんがご承知のように1時間に10万以
上のウェッブページが創られています。そして今年になって1億人のユーザーが新たに加わりました
。すべては、研究から始まりました。そしてそれは続けられなければなりません。私は、西暦200
0年に国会に提出する予算として、コンピュータとコミュニケーションを特に増額しました。科学、
技術の私の新しいアドバイザーであるニール・レイン博士に今後の課題としてのわが国の研究機関に
関する詳細な計画を準備するよう指示しました。過去50年間以上におよぶ科学への推進がこの国を
無数の面で強くしてきました。科学的な研究開発により、新しい企業を創造し、何百万もの雇用を創
造し、世界最大の食物供給と病気治療のための素晴らしい道具を生み出してきました。こんにちの投
資がどれほどのことが出来るかを考えてみましょう。ホウ博士がエイズの謎を解くでしょう。ガンに
対する治療薬、もっと公害のない経済的な繁栄、潜在的に破壊的な地球温暖化から遠ざかり、無線に
よる高速ネットワークと過疎地の医療と教育、アメリカのどんな遠隔地でも経済機会が与えられる。
これが国家予算を科学にもっと割り当てていく理由です。今年私は歴史上最大の研究基金増額を議会
に提出します。これは1年間だけの基金ではなく5年間継続するものです。ここでもっとも肝心なこ
とは、政党とか個人的なことに関係なくすべてのアメリカ人がわが国とその使命について考えなけれ
ばならないということです。

「クラスルームフックアップ」

 2番目にしなくてはならないことは、情報時代の機会が我々のすべての子孫のために存在するよう
にしていくことです。すべての若いアメリカ人は、これらのテクノロジーに関与しなければなりませ
ん。2年前からわが国は、すべての教室を2000年までにインターネットで結ばれるように努力し
てきました。国家、州、地方、一般市民から、前例がないほどの協力を得て、そしてまたコンピュー
タの価格が安くなったことも手伝って、この計画が順調に進んでいることに感謝します。4年前にみ
なさんがマサチューセッツ工科大学に入学したとき、アメリカ中の教室の3%がかろうじてインター
ネットにつながっていたにすぎませんでした。来年の今頃は、全米上位50都市の全教室を含む半分
以上の教室がつながっているでしょう。しかし教室がインターネットにつながるだけでは十分ではあ
りません。サービスが受けられなくてはなりません。最近E-rate という言葉を聞かれたかもしれま
せん。現在我々が先導して、学校と図書館と遠隔地の保健所をインターネットにつなぐように努力し
ていることは、非常に重要なことです。今、いくつかの企業がこの
先導権を無効にするよう国会に提訴しています。理由としては、わが国には、教育および保健機構に
年間10億ドルからの出費やそれに伴う遠距離通信サービス料を捻出する余裕がないということで、
とくに96年に議会の両党で大多数の賛成を得た遠距離通信法令を根拠にしています。もし我々が全
員情報時代に属していると信じるならば、この繁栄の中で、1人の落伍者も出してはなりません。私
の云っていることを理解してくれるならば、ぜひ E-rate をサポートして欲しい。都会の貧困地区か
らきたすべての人、田舎の小さな学校区から来た人、またはここで話していることが遠い夢のような
外国から来た人、わかるでしょう、誰かがこの種の機会を与えてあげなければならないことを、マサ
チューセッツ工科大学に入学することなど到底不可能な貧しい子どもたちがいることを。すべてのア
メリカの子どもたちは、情報革命に参加する機会を得る権利をもっています。

「教育の重要性」

 第3番目に、世界につながっている全てのコンピュータが無駄にならないために、我々の子供たち
が21世紀の技能を身につけられるようにしなければならないことです。今後5年間は、教育を国内
政策の最重要課題として最善を尽くしていきます。ホープ奨学金、ペル基金の拡大、現在の12年教
育制度から13年制、14年制へ移行していくつもりです。そのために、やる気のある全ての若い人
たちが大学に行けるよう、税金融資、学生ローン制度の見直し、就労学生制度の拡大、そして、Ame
riCorps(アメリカ企業体)を創造していきます。我々は、世界でもっとも優秀な公立学校を造り上
げるために、少人数制でより良い設備を持ち、優秀な教師、高い水準にするために努力していかなけ
ればなりません。新経済体制の中では、全ての子供はテクノロジー学を学習することが必要とされて
きます。子供たちがニューテクノロジーを学習しないで中学校を卒業することは、もはや不可能であ
り、すでに10の州では、将来の目的として、テクノロジー学が高校卒業の必修条件としています。
私はこの条件を中学校にすべきであると確信しています。全ての州で、中学生が最新の器材を使って
学習、研究、通信、共同研究が出来るようにすべきと考えています。そして全ての州でこれが達成で
きるよう協力します。もしテクノロジー学を必修にする州があれば我々はそれに見合うための教師の
トレーニングを提供します。私は、アメリカ中の中学校のために訓練されたテクノロジー専門家チー
ムを組織し、次の3年間でソフトウェア会社で学生と教授による高品質教育ソフトと教育ウェブ・サ
イトを開発競争させるつもりです。全ての学生は、黒板と同じごとくキーボードに馴染み、教科書の
ごとくラップトップコンピュータに親しむべきでしょう。21世紀の世界でみんなが機会を得るため
には、とても大切なことです。情報時代における不滅の価値を新たにすべく政策と仮借のない努力を
約束します。しかし、これを達成するには、政府だけでは出来ません。この革命が成功するには、全
ての人が一致団結して不休の精神で、創造し、解決していかなくてはなりません。全ての国民がこの
使命のために努力しているときに、他のことを楽しんだり、専念する者は、問題になるでしょう。ル
ート128とシリコンバレーの地域で繁栄している企業は、他に力を貸し、学校に投資し、困ってい
る地区を助け、機会を待っている若い人々に機会を与えてほしい。我々の子供達がみんなテクノロジ
ー学を自分のものとするまで、休まず努力する必要があります。諸君の多くは既にこのような仕事を
してきているし、多くの方もそうでしょう、しかしアメリカは全ての企業がこれに参加して貰う必要
があります。最後に、98年度卒業生諸君、卒業おめでとう、諸君の大統領として、挑戦に勝つため
に、プロジェクトを完了するために、ゴールに到着し、優位に立つために、諸君が約束してくれるこ
とに感謝します。諸君、諸君の両親、親友は、誇りを持ってください。諸君には、希望に満ちた新時
代が待っています。諸君は自分の能力の絶頂期にいます。世界は諸君の仕事に対して正当に評価する
でしょう。諸君は、人生を最高のものとし、与えられた機会を活用すべきです。そして諸君は、それ
に対してアメリカに貢献する責任があります。いつの日か、諸君の世代がしてきたことの意義を評価
され、諸君自身も自分が何をしてきて、家族のために何をしたかを考えるでしょう。しかし、諸君は
自国や次の世代の子供達に貢献し、諸君の幸運が他の人々へのチャンスをつくり、科学界、産業界で
の指導者としてだけではなくアメリカの指導者にもなっているでしょう。21世紀のアメリカは諸君
のものである。どうかそのときのアメリカをよろしくおねがいします。